2021年1月13日

寄稿:プラスチックと持続可能性 ~多様なステークホルダーによる共創の試み~

全国日本学士会会誌ACADEMIA №178に論文を寄稿いたしました。
リンク:会誌ACADEMIA №178 2020.10 「「プラスチックと持続可能性~多様なステークホルダーによる共創の試み〜」


京都大学 地球環境学舎・セイラーズフォーザシー日本支局
井植美奈子


世界の風景が覆った2020年。COVID19の根絶を最優先させるなら、ロックダウンなど非常事態措置を取るのが最も有効なのかもしれないが、そうすることによって今度は経済が大打撃を受けてしまう。そこで我々は社会の「ベストバランス」を見出すことを求められている。これからも試行錯誤しながらできうる最善の策を講じていくのだと思われる。人々は「ニューノーマル」に適応することが求められている。
プラスチックゴミ問題も、解の求め方について論じれば、どこかそれと似ているのではないか。プラスチックゴミをなくしたければプラスチック製品の使用をやめ、製造をゼロにするのが究極の解である。しかしもはや人類がプラスチックを使わないというのはまずあり得ない。そこで、プラスチックの利用と環境保全の「ベストバランス」を見出すことが求められている。 人類は今、国境を越えて必要なプラスチックと削減すべきプラスチックの線引き、そして持続可能なプラスチックの始末の仕方を求められている。プラスチック製品に対する「ニューノーマル」を模索しチャレンジしている段階だと言えよう。

国際社会では様々な取り組みが宣言されているが、2018年にカナダで行われたG7で宣言された「海洋プラスチック憲章」、いわゆるシャルルボワ憲章(日本は未署名)では2030年までにプラスチック容器の再利用・リサイクル率を55%まで高めることや、2040年までに全てのプラスチックの再利用、リカバリー率を100%に引き上げることをうたっている。
一方シャルルボワでは出遅れた感が否めなかった日本政府も、G20大阪サミットでは共通の世界のビジョンとして、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の共有を牽引した。また、「2030年までにレジ袋を含む使い捨てプラの排出量を25%削減し、環境流出時も影響が少ない素材開発を進める」とし、レジ袋の有料化を推進した。

私は2011年に海洋環境保護に特化した国際NGOの日本支局(2013年に日本法人として独立)を設立したが、折に触れ海洋環境の問題の原因は公害・気候変動・漁業の3つに大別できるとお伝えしている。特に数百年にもわたり海洋汚染を引き起こすプラスチックごみの問題は深刻で、全てが陸上の人間が行う製造と消費活動によってもたらされるものだ。世界のプラスチックごみのリサイクル率は1~2割程度にすぎす、多くが海に流れ込む。日本に目を向けると、1人あたりの使い捨てプラスチックごみ廃棄量は、米国に次いで世界で2位(国連環境計画=UNEP調べ)という世界に名だたるプラスチックゴミ廃棄国となっている。
ではどのくらい海にプラスチックゴミが流出しているのだろうか。世界中の諸団体が様々な表現を用いて警鐘を鳴らしている。すでに世界の海には計1億5千万トンのプラスチックごみが存在すると言われている。さらに年間でジャンボジェット機5万機に相当する約800万トンのプラスチックごみが流入し続ける。とか、1分間にトラック1台分のプラスチックゴミを海に捨てている計算になる。とか、このペースで流入が続けば、2050年に海は魚よりプラスチックごみが多い状態になる。など。これらはすべて推測値ではあるものの、人々を震え上がらせる効果は十分にある。さらにプラスチック由来の漁網ゴミ、いわゆるゴーストネットによる生態系への被害も指摘されている。
自然エネルギーのみで世界一周をしながらサンプル採取や測定など、海ごみの科学的調査を続けている実験的ヨット、「レースフォーウォーター」号をはじめ、各国で多くの科学実験をミッションとした航海が行われている。レースフォーウォーター号の乗組員にインタビューすると、「目視圏内にプラスチックゴミが目に入らない日は世界中の海でどこにもない。そしてプラスチックはマイクロ化されれば目にも入らず、それらは生物が体内に摂取したり、深海にも到達している」と答えた。むしろ、プラスチックゴミが海面上を漂う様子のような目に見えるものは脅威の氷山の一角に過ぎず、地球上の海の至る所で漂う既にマイクロ化されたプラスチック片を含む全てのプラスチックゴミを回収することは今の技術では不可能なのである。
人類は明らかに使い捨てプラスチック 製品を使い過ぎている。製造量に対して適切な処理能力を持たず、ゴミを海洋に流出させている。ではどうすれば良いのか。子供でもわかることである。できるだけ使う量を減らし、ゴミを流出させないようにすれば良いのだ。では、なぜ問題がなかなか解決しないのか。

海洋環境について政策提言を続けていると突き当たるのが、利害関係者の抵抗である。たとえば水産資源はいまだかつてないほど枯渇しており、安倍政権は2018年に70年ぶりに漁業法改正を成し遂げたのだが、詳細設計の段階においても、第二弾の法案についても、業界団体などのロビー活動、圧力は大変なものがある。
同様に、政府が使い捨てプラスチックバッグの無料配布に制限をかけるにあたり、プラスチック製造業界関係者もロビー活動を展開した。その結果、有料化の「対象外」の使い捨てプラスチックバッグが定義されるに至った。分厚いもの、バイオマスプラスチックを25%以上配合したもの、海洋生分解性100%のもの。である。ただし、分厚くても(頑丈だから再利用できるとしても)、バイオマスプラスチックを配合しても(原材料に利用する化石燃料の消費が減ったとしても)、それらがゴミとして流出する確率が減るわけではないし、海洋生分解性100%の製品などまだ存在しない。
このような環境保護には反するロビー活動が、法案や法案成立後の詳細設計に抜け道を作るきっかけとなるのは言うまでもない。しかし、それは非常に刹那的な対処法であり、結果として社会全体の持続可能性を下げることとなるのだ。プラスチックごみが減らなければやがて生温い対処法では済まなくなり、一気に国際政治の大鉈がふるわれるか、地球が破滅するか、我々は見たくない事態に直面する事になるだろう。

では誰が最も偉大な決定権を持つのか。それは他でもない、消費者ひとりひとりなのだということを忘れてはいけない。購買という投票によって、消費者は政府や企業の姿勢に賛同したり支えたりすることができる。一方、不買という行為によって、政府や企業の姿勢に意義を唱えることもできる。現代ではSNSの力も大きい。SNSで良い企業や良い製品、良い政治家を応援したり、プラスチックの代替え製品を紹介したり提案することもできる。

欧米先進国では20年ほど前からNGOなどの牽引によって海洋環境保全に対する市民意識啓発が盛んに行われている。
弊社セイラーズフォーザシーの米国本部も2006年から独自に開発したプログラムClean Regattasを提供している。これはセイラーズフォーザシーの創設者である、ロックフェラー家当主・ディビッド・ロックフェラーJr.がヨットレースのワールドカップの代表選手だったことから、海洋スポーツに環境レギュレーションを設定したものである。ヨットレースをはじめとした海上スポーツにおいて20項目の簡単に記入できるチェックリストを用意し、各自が申請した到達点に届くかどうかを検証できるプログラムである。
例えばヨットレースの最高峰、ワールドカップであるAmerica’s Cupでも採用された。この大会はサンフランシスコ大会で全項目において基準をクリアすると与えられる、最難関のプラチナステータスを達成している。参加各国のヨットチームや企業などのサポートチームはもちろんのこと、ハーバーで出店しているルイ・ヴィトンやグッチといった一流ブランドのアンテナショップもコップやハンガーに至るまで一切のプラスチックを排除した運営を徹底した。
日本においても2012年からキャンペーンを展開している。葉山マリーナは年間登録を行なっており、日本の海洋スポーツを牽引してきた老舗マリーナの威厳に相応しく、海洋環境保護に対しても積極的にリーダーシップを発揮している。さらに葉山町とセイラーズフォーザシー日本支局は包括協定を結び、町をあげての取り組みに発展している。

クリーンレガッタのチェック項目「ベストプラクティス」は以下の5カテゴリー、20項目である。

*使い捨て品の排除
1. シングルユースの水筒を廃止し、給水ステーションを設置する。
クリーンレガッタの97%の圧倒的な割合で、ペットボトルに別れを告げています。

2. プラスチックストローをなくそう
それらを完全に排除するか、エコでスマートな代替品を見つけましょう。紙や金属、あるいは干し草やパスタでも代替効果がありますよ

3. プラスチックを使わない食器を使って料理を提供する
使い捨てるとゴミになります、再利用を選択してください(そして、卑劣なバイオプラスチックには注意してください)!

4. 再利用可能なバッグを使用する、または提供する
ビニール袋は時代遅れです。1枚でも海に流れるビニール袋を減らすのがあなたの役割です。

5. 実用的な賞品かずっと使える、またはアップサイクルされたトロフィーを使用しましょう
参加者が実際に使用する賞品で、参加者の功績を祝いましょう。また、ずっと使えるトロフィーでレガシーを作ることもできます。

*コミュニティへの参加
6. サステナビリティへの取り組みを広報する
より青い地球とより青い海のためにあなたが愛するものを守っていることを世界に伝えましょう!

7. 地元の組織を巻き込む
クリーンレガッタを成功させるために、あなたの地域社会の強みを利用しましょう。

8. 責任ある、教育的で再利用可能なサインを掲示する
再利用や毎年追加可能な看板で、取り組みをアピールしましょう。

9. 地元の食材やサステナブルな魚介類を提供する
地元企業を支援し、持続可能な方法で漁獲された魚介類を使用するようにしましょう。

*責任ある廃棄物管理
10. グリーンチームの結成
この貴重なグループは、あなたのサポートシステムとなり、持続可能性の目標をすべて達成するための手助けをしてくれます。

11. ごみ箱の適切な配置と標識を確認する
ゴミが正しいゴミ箱に入るかどうかを確認するのは難しいことです。看板は、それをできるだけ簡単にするのに役立ちます。

12. 生ごみを埋め立て地に送らない
コンポストは意外と簡単です。または、この機会に余った食糧を困っている人と分け合いましょう。

13. ペーパーレスでイベントを管理する
ホワイトボード、プロジェクター、テレビ、電話など、情報を流通させるための持続可能な方法はたくさんあります。

*環境への配慮
14. ビーチやマリーナの清掃活動を主催する
プラスチック汚染問題に対する意識を高め、地域の環境にすぐに影響を与えるために自分の役割を果たしましょう。

15. 代替交通機関の促進
自転車、相乗り、公共交通機関の利用、または二酸化炭素排出量の相殺は、すべて二酸化炭素排出量を削減するための長い道のりを歩むことができます。

16. 野生生物と生息地の保護に対する意識を高める
あなたが愛するものを守るためには、海に住む生物を守ることが必要です。

17. ベジタリアンまたはビーガンの代替品を提供する
ベジタリアンは二酸化炭素排出量を減らし、環境に与える影響を想像以上に減らすことができます。

*グリーンボーティング
18. 水のみの洗浄を奨励する
洗剤の使用をやめましょう! その方が楽だし自然にも優しいです。

19. 非毒性の日焼け止めや洗顔料を使用してください。
製品を慎重に選ぶことで、有害な化学物質の海洋流出を減らせます。

20. ステッカーを提供しない
水に流されやすいシールなどを使うことをやめましょう。

このクリーンレガッタは提供開始以来40か国で2300イベント、のべ66万人が参加したことになる。セイラーズフォーザシーはこのプログラムを通して「海とスポーツ」のつながりから一人一人の意識向上に向けた教育プログラムによる啓発を行っているが、スポーツ以外にも、例えば音楽、美術、旅行、グルメなどあらゆるジャンルにおけるアクションを活用して消費者一人一人の意識を変えることが可能であり、様々な分野の様々な立場の人々が価値観を共有し、行動することが大切になってくる。地球上の全員が10本買っていたペットボトルを5本に減らせば、地球全体の消費も半減するのだ。

  その結果生じるのは、従来のプラスチックの製造を減らすという経済縮小のシナリオだけではない。大きなビジネスチャンスも眠っている。プラスチックは原材料も見直されつつあるが、生分解性のあるものが開発されたものの、この生分解性のプラスチックに今現在実用的な海洋分解性はない。つまり、今後はテクノロジーによって海洋分解性をはじめとした地球環境に無害の素材開発や、代替素材の開発が待たれており、そこには大きなビジネスチャンスも眠っている。
また、ペットボトルを削減するとウォーターステーション、マイボトル、紙パックなどの需要が伸びてくるだろう。石油由来の火力発電からリニューアブルエナジーへの転換が図られるように、使い捨てプラスチック容器から代替え素材へと需要はシフトしていくだろう。
政府、企業、NGO、アカデミア、消費者などすべてのステークホルダーが一つの価値観でゴールに向かうことが、解決の糸口を作っていく。それぞれが、それぞれの立場で次世代の「ニューノーマル」という新たな環境に適応していくことが持続可能な社会への共創を可能にする。
チャールズ・ダーウィンが著書、「種の起源」で述べたように、生き残れるのは最も強い生物ではない。最も環境に適応することができた種なのだ。

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